「美術と文学の対話」作品紹介③

前回に引き続き、上橋 薫(うえはし かおる)作品の紹介です。

「馬(水辺初秋)」

作風から、おそらく前回の「親子馬(陽だまりの親仔)」(1970年)の後に制作されたと思われます。同じ馬の親子のモチーフでありながら、画風が大きく変化している様子が分かります。

馬の描写はより優美になり、なおかつ威厳すら感じさせます。
また青年期に坂本繫二郎から「色感が良い」と賞されたように、若い頃からカラリストとしての才を発揮していた上橋ですが、馬を描き続ける中でより見る人の陶酔を誘う、華やかかつ爽やかな色彩へと変化を遂げています。
前回の作品は筆触が作品にリズムを与えていたのに対し、本作は筆触が抑えられ、静けさに包まれた画面となっています。

あたかも見る人を非日常の世界へと誘うような引力を持つ作品です。

参考文献:
河北倫明「上橋 薫 個展によせて」『上橋薫作品集1980』