タニヤマアートシーンの作家たち⑤

第5回は、鹿児島県立開陽高等学校教諭の木下 天心(昭二)先生の作品
「或る日」です。

木下 天心「或る日」
2021年 油彩/キャンバス

 絡まり合った幹や気根(空気中の養分や水分を吸収するために出す根)が目を引く巨木は、「アコウ」というイチジク科の樹木です。よく似たガジュマルが種子島・屋久島を北限とするのに対し、アコウは西日本の温暖な地域でひろくみられます。
 本作では錦江湾沿いそびえ立つアコウの古木と乗り捨てられた自転車が描かれています。

 木下先生は20年以上にわたりガジュマルやアコウの木を描かれていますが、それ以前は「古い鎧」をモチーフとされていました。しかし、離島への異動により古い甲冑を取材するのが難しくなり、今後のモチーフについて思案していたところ、ガジュマルの木に鎧との意外な共通点を見出されたそうです。
 古い甲冑の空洞から今は亡き武将の身体の存在を感じ取ったのと同様に、ガジュマルの幹の隙間から寄生され枯れてしまった木々の存在を感じ取り、新たなモチーフとして描き始めたそうです。
 離島の学校を離れた後は、似た樹形のアコウがモチーフとなりました。また最近は湖の水面に映る木の影の表現に探究にも取り組まれています。