「美術と文学の対話」作品紹介③

前回に引き続き、上橋 薫(うえはし かおる)作品の紹介です。

「馬(水辺初秋)」

作風から、おそらく前回の「親子馬(陽だまりの親仔)」(1970年)の後に制作されたと思われます。同じ馬の親子のモチーフでありながら、画風が大きく変化している様子が分かります。

馬の描写はより優美になり、なおかつ威厳すら感じさせます。
また青年期に坂本繫二郎から「色感が良い」と賞されたように、若い頃からカラリストとしての才を発揮していた上橋ですが、馬を描き続ける中でより見る人の陶酔を誘う、華やかかつ爽やかな色彩へと変化を遂げています。
前回の作品は筆触が作品にリズムを与えていたのに対し、本作は筆触が抑えられ、静けさに包まれた画面となっています。

あたかも見る人を非日常の世界へと誘うような引力を持つ作品です。

参考文献:
河北倫明「上橋 薫 個展によせて」『上橋薫作品集1980』

「美術と文学の対話」作品紹介②

第2回となる作品紹介では、福岡県出身の画家 上橋薫の作品「親子馬(陽だまりの親仔)」を紹介いたします。

上橋は当初小説家を志していたそうですが、親族の反対をきっかけに画家の道に進んだそうです。
21歳で上京し国画会研究所に通ったのち、示現会会員の光安浩行、大内田茂士に師事。示現会や日展で活躍したのち無所属となり、国際形象展や個展等で作品発表を行いました。
馬の親子などをモチーフとした作品で知られるほか、還暦後は奈良や阿蘇などの日本風景に取り組み、幽玄な世界観を深化させていきました。
また、「精霊の守り人」シリーズで有名な児童文学作・上橋菜穂子の父親でもあり、著作の装丁もいくつか手がけています。

本作品は前年の改組第1回日展で特選を受賞し、馬の親子モチーフを確立しつつある頃の作品です。
アースカラーでまとめられた風景に差し込む日差しの鮮やかさや、母馬に嬉しそうにすり寄る仔馬の生き生きとした描写が印象的な作品です。

参考文献:
瀧悌三「上橋薫 清爽な抒情の色彩画家」『月刊美術』1980年11月号,pp.126-131

「美術と文学の対話」作品紹介①

画家と文学とのつながりにスポットを当てた「美術と文学の対話 ~色彩の詩 言葉の詩~」展。
ポスター作品画像の右側に詩が添えられているのにお気づきでしょうか?

実は詩も、絵画作品同様に徳島出身の画家・森長武雄先生による作品です。
森長先生は、長年にわたり故郷徳島での少年時代をモチーフに取り組まれ、見る人を包み込むようなノスタルジックな世界観が印象的です。

また、当館収蔵作品には「朝」のように作品に詩が添えられた作品が多く、童話を思わせる温かみある文章が見る人の心を一層和ませます。

「美術と文学の対話」展では、詩付きの森長先生の作品を7点展示しています。