タニヤマアートシーンの作家たち⑥

第6回は、鹿児島県立開陽高等学校教諭の廣岡 謙一先生の作品「炎華(えんか)」です。

廣岡 謙一「炎華」
2017年 油彩/キャンバス

廣岡先生は長年にわたり、心象風景を円(まる)や渦巻のかたちで表現した作品を制作されています。また「炎華」というタイトルが示すように、本作品には植物的なイメージも込められています。
どこから見ても美しい構図となるように、360度キャンバスを動かしながら制作されたため、正面以外の方向からみても一味違った構図の渦巻の世界を楽しめる作品となっています。

躍動感のある線や鮮やかかつ深みのある色彩に込められた、作家さんの心の中の風景を自由に想像してみてください。

第2回ギャラリートークを開催しました

9月7日(日)、「TANIYAMA ART SCENE」第2回ギャラリートークを開催しました。
今回は鹿児島県美術協会会長・二科会会員の祝迫正豊先生にお話いただきました。

今回は画面構成の工夫や色調による効果、モチーフの描写方法の違いといった、作家ならではの観点から解説いただきました。
谷山在住の画家・児玉 光仙(こだま こうせん)(1921-2007)は、水墨画を思わせるダイナミックな線が印象的な作品(例:「暁の桜島」)で知られる一方で、「慕情(想)」のような、余白の白色からモチーフがぼんやりと浮かび上がるような、やや異なる画風の作品も残しています。
この作品について、先生は「余白の取り方がダイナミックな作品であり、画家にとっては描きこみをどこまでに留めるかの判断も難しいところ」と解説され、画家のバイタリティーが別の形で発揮された作品であることに気づかされました。

左:「暁の桜島」/右:「慕情(想)」

また、谷山在住の先輩作家の方々とのエピソードもお話いただきました。
一貫して裸婦をモチーフとした庵跡 芳昭(あんぜき よしあき)(1929-2016)は、ドーバー海峡にて版画家の浜田 知明(はまだ ちめい)(1917-2018)と知り合いました。後年浜田が来鹿した際に庵跡の自宅へ案内したところ、ユニークな歓迎を受けたそうです。

「時の狩人、時空」解説風景

ポスター掲載作品「時の狩人、時空」は、コロナという見えないものへの恐怖を感じていた時間を記録すべく制作を始めた「時の狩人」シリーズのなかでも、新たな展開を見せている作品です。複雑な形状をした重量感のある「岩盤」と、魚のようなフォルムの「もや」という対照的なモチーフが、七色の光を帯びながら宙に漂っています。
モチーフの持つ意味などについてわかろうと思いを巡らすより、画面の前に立って受けた印象を大切にして欲しいそうです。

祝迫先生ならびにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

タニヤマアートシーンの作家たち⑤

第5回は、鹿児島県立開陽高等学校教諭の木下 天心(昭二)先生の作品
「或る日」です。

木下 天心「或る日」
2021年 油彩/キャンバス

 絡まり合った幹や気根(空気中の養分や水分を吸収するために出す根)が目を引く巨木は、「アコウ」というイチジク科の樹木です。よく似たガジュマルが種子島・屋久島を北限とするのに対し、アコウは西日本の温暖な地域でひろくみられます。
 本作では錦江湾沿いそびえ立つアコウの古木と乗り捨てられた自転車が描かれています。

 木下先生は20年以上にわたりガジュマルやアコウの木を描かれていますが、それ以前は「古い鎧」をモチーフとされていました。しかし、離島への異動により古い甲冑を取材するのが難しくなり、今後のモチーフについて思案していたところ、ガジュマルの木に鎧との意外な共通点を見出されたそうです。
 古い甲冑の空洞から今は亡き武将の身体の存在を感じ取ったのと同様に、ガジュマルの幹の隙間から寄生され枯れてしまった木々の存在を感じ取り、新たなモチーフとして描き始めたそうです。
 離島の学校を離れた後は、似た樹形のアコウがモチーフとなりました。また最近は湖の水面に映る木の影の表現に探究にも取り組まれています。

タニヤマアートシーンの作家たち④

第4回は、寺尾作次郎の作品です。

寺尾作次郎 作 「めざし」 墨絵 

タニヤマアートシーン展では、谷山にゆかりのある現役の作家さんの他に
物故(すでに亡くなっている)作家の作品も展示しています。
この作品をを描いた寺尾作次郎(てらおさくじろう 1898(明治31)年~1984(昭和59)年)は三宅美術館のすぐ近くに住んでいました。

鹿児島県では陶芸家として知られていますが、若い頃は画家の和田三造に入門して絵画や図案、染色を学び、東京や京都で陶芸だけでなく、図案家、染色家としても活躍していました。

本作品に描かれているのはタイトルにあるように「めざし」です。
寺尾作次郎の好物で毎日のように食べていたそうです。
食卓に上がる’おかず’なので、すでに焼かれているはずなのですが、
表情が可愛くて、まるで生きているようですね。
タニヤマアートシーン展の一番最初に展示しています。

タニヤマアートシーンの作家たち③

第3回は、清泉寺長太郎焼窯元 有山明宏さんの作品です。

清泉寺長太郎焼窯元 有山明宏「蓏」陶器
2003年頃 鹿児島陶芸展、琉球薩摩現代陶器展(2015年)出品作 

本日ご紹介する長太郎焼は清泉寺長太郎焼窯元の有山明宏(めいこう)さんの作品です。

ザラザラとした球体の上には穴が空き、そこからいくつかの筋が伸びています。まるでなにか未知の生命体の卵のようでもあり、黒い部分がススだとすると土器のようでもあり、なんともいえない不思議な焼物です。
大きさは縦横40cmほど。

この作品のタイトルは「蓏(ら)」。
さて、この作品は何を現しているのでしょうか?

作品のキャプションにその答えがあります。
2階展示室のガラスケースに展示していますので、
ご自身の想像と照らし合わせてみてください。

タニヤマアートシーンの作家たち②

第2回は本窯長太郎焼窯元の四代長太郎 長佑さんの作品「爽夏影」です。

有山長佑「爽夏影」 陶器 2012年作 第44回日展出品作

先日、画家の黒田清輝が命名したとご紹介した谷山で生まれた焼物
「長太郎焼」。
初代が窯を開いたのは谷山の小松原、情報高校近くの永田川河口沿いです。窯の跡地に今はマンションが建っていますが、石碑が残っているので場所はすぐに分かります。

現在の長太郎焼は、
谷山の木屋宇都(こやんと)地区の本窯
同じく谷山の清泉寺跡の清泉寺長太郎焼窯元
指宿市の指宿長太郎焼窯元の3カ所で炎が受け継がれています。

「タニヤマアートシーン」展では、
谷山で製作している本窯と清泉寺長太郎焼窯元の作品を展示しています。

先ずは本窯の四代長太郎長佑(ちょうゆう)さんの作品
「爽夏影(そうかえい)」をご紹介します。
作品名のとおり、夏の季節にぴったりの爽やかな青い釉薬*ですね。
これは四代長太郎のオリジナル色で、鹿児島の青い空と海を表現しているそうです。
青い色の下からかすかにのぞく白色に、みなさんは何を感じ連想するでしょうか?

この作品の見所は、下の円盤のような胴にその2倍ほどの高さの首が乗っているのに、平たい胴が潰れずきれいに円盤状の形を保っているところです。これは高い技術と経験が必要とされる造形です。

引き込まれてしまいそうな神秘的な青い色と、造形の妙をぜひ近くで見て感じて下さい。

*釉薬(ゆうやく)…陶器の土の上に掛けて焼くと、色が付いたり、模様ができたり、ガラス質なので水漏れ防止で実用的になるなどの役目があります。

タニヤマアートシーンの作家たち①

第1回は、鹿児島県立鹿児島南特別支援学校教諭の米倉秀紀先生の作品「STAR GATE」です。

米倉 秀紀「STAR GATE」
2023~2024年 油彩・アルキド樹脂/キャンバス

本作品は、SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」のメインテーマの一つとなっている「人類の進化」がモチーフとなっています。
中央の穏やかな表情の子どものまわりには、ツタと半ば一体化するように鳥や人の顔が描かれているのにお気づきでしょうか?
謎めいた様子の登場人物も一人一人物語を持っています(詳しくは会場で!)。

幾層にも絵具が重ねられ奥行きがありながらも透明感のある絵肌や、謎めいた雰囲気の登場人物と複雑なツタの動き、また人物やツタの細部まで描きこまれた線の重なりによって生み出される、繊細で神秘的な世界観にぜひ触れていただきたいです。

9/7(土)第2回ギャラリートークのご案内

下記のとおり第2回ギャラリートークを開催いたします。

日時:9月7日(土)14時~
講師:祝迫正豊先生(鹿児島県美術協会会長、二科会会員)
参加費:入館料のみ *予約不要

美術作家として、また教育者として長年鹿児島の美術に携わってこられた
先生ならではの解説を聞きながら、谷山のアートシーンをじっくり味わってみませんか?
参加ご希望の方は、14時前に2階絵画展示室にお集まりください。

ステンドグラスワークショップを開催しました。

「TANIYAMA ART SCENE」展関連イベントの一環で、7月21日(日)にステンドグラスワークショップを開催しました。
講師は谷山在住のステンドグラス作家・田中千紘先生です。

はじめに、展示会場にてステンドグラスの歴史や出品作品『海の星』について解説を行っていただきました。

「海の星」

本作品は、枕崎駅近くの丘の上にあるカトリック教会を訪問した際にインスピレーションを得た作品だそうです。
花が咲き誇る丘の上に建てられた教会や2本のオリーブの木(訪問時に植樹)、星空や海のイメージ、教会を見守る天使といったモチーフがちりばめられています。
なおタイトルの由来は、教会の別名が『海の星』であることに由来しています(カトリック系教会にはしばしば別名があるそうです)。

ステンドグラスの制作技法はケイム(溝のある鉛線)にガラスをはめ込む技法と、銅箔のテープをガラス側面に巻いてはんだ付けでつなぎ合わせる技法の2種類がありますが、本作品は両方の技法で構成されています。
また管状のガラスを刻んだものをガラス窯で焼いてつなぎ合わせたり、魚の形の金属パーツをガラスの中に焼き込んだりして制作されたオリジナルのガラスも使用され、見どころの1つです。

次に、実践編ということでサンキャッチャーもしくはトロフィーを制作いただきました。

ガラスを選んで、レイアウトを考えたのち

はんだづけを行うと、光り輝くミニステンドグラスが完成しました。

なおワークショップは終了しましたが、8月2日(金)、「TANIYAMA ART SCENE」展関連イベントとして担当学芸員によるギャラリートークを14時より開催いたします(要入館料)。
展示作品や谷山で活躍する美術作家さんについて詳しく知りたいという方はぜひご参加ください。