KTSライブニュースで紹介されます

先日、KTS鹿児島テレビのKTSライブニュースから
「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展の取材がありました。
アナウンサーの美川愛実さんは美術に大変造詣が深くて
こちらのつたない説明を上手にまとめてくださいました。
放送は12月5日(木曜日)18:00~の予定です。
ぜひご覧下さい。

「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展より 作品紹介6

「貢戸棚」昭和9年(東京時代)
 長さ九尺(約2m70cm) 奥行三尺(約90cm)

本作品は昭和9年、毎日新聞社の記者で俳人の小野賢一郎氏の依頼により
東伏見伯爵家へご成婚祝の献上品として制作された書棚です。
表扉から横、背面まで革張り細工が施され、琉球王府の江戸上りがモチーフとなっています。下絵が彫られた版木に革を打ち付けて図柄を浮き上がらせ、その上に金箔を敷いてから彩色がされているそうです。これは、経年とともに渋い味わいが出ることが計算された手法です。
革細工に使用された版木とその下絵はすべて残っていますが、本展では表扉の4枚を展示しています。

「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展より 作品紹介5

「窯変鳥葡萄文扁壺」昭和34年 鹿児島工業試験場時代「武町鹿窯」銘

この作品は原良町にあった工業試験場が武町に移転した年に製作されました。寺尾はこの年に定年退職していますので、工業試験場時代の最晩年の作品になります。

作品名にあるように、正面に鳥、横に葡萄の貼付文(本体とは別に作って置いた飾りを粘土で貼付ける技法)が施されています。
その上から数種類の釉薬を掛け分けていて、窯変(窯で焼成中に起こる変化)による景色も味わい深い作品です。
本作品は「扁壺」といって、上から見ると楕円になっています。(横から見ると正面より薄い)
寺尾は、河井寛次郎のもとに二年ほど入門していますが、扁壺は河井寛次郎も好んで製作していました。

さて、実は、本作品の特徴は底の部分にあるのです。

この作品、高さ50cm、幅40cmの大きな壺で、重量は一度置いたらなかなか動かすことは無い重さです。しかし、寺尾はその底部に美しい陽刻(模様を浮かび上がらせるように彫ること)の花文様と白い釉薬を施しているのです。
寺尾作次郎の作品には、まず人目に触れることはないであろう箇所にも趣向を凝らしたものが、いくつもあります。展示している絵皿なども、裏に素敵な絵付けをされているものが多く、全てお見せできないのが残念です。

「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展より 作品紹介4

「染付陶家文水指」紫原鹿窯(昭和43年~59年)

こちらは染付(呉須とよばれる藍色の釉薬で文様を施したもの)で
陶家(陶芸家、焼物の窯の様子)を描いた水指になります。
この絵付けは、面相筆(めんそうふで)という日本画で人物の目鼻立ち(面相)を描くときに使われる大変細い筆で緻密に描かれています。


寺尾作次郎は18歳で画家の和田三造に入門し、日本画、図案などを学んだので、面相筆使いはお手のものだったようです。
寺尾が昭和4年~14年まで図案家として務めていた松坂屋の松坂屋史料室には、昭和13年に模写した「源氏千載ひながた」の下巻が残されていますが、
その筆致も大変精密で、寺尾の画力に驚かされます。

展示室にはスケッチブックも展示していますので、寺尾の画家としての一面もお楽しみ下さい。

「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展より 作品紹介③

「貼付獅子文革壺」昭和12~14年

こちらの作品は、作品名のとおり革製の壺になります。
地肌が一見すると木目のように見えるので木製の壺に見えますが
水牛の革を叩き上げて壺を成形した作品です。
浮き出ている装飾文は文様を彫った版木に(凹)に
革を叩き付けて浮き上がらせ(凸)膠で貼付けてあります。
寺尾作次郎の京都時代の作品です。


そしてこちらは、「彩色蓋付革壺」昭和11年以前 です。

同じく革製の壺ですが、寺尾作次郎の東京時代の作品で
蓋付きの壺になります。
製法は貼付獅子文革壺と同じですが、こちらは全体に胡粉を塗り
その上に絵付けをしています。
併せて図案も展示していますので、壺の図柄と見比べてみて下さい。

「寺尾作次郎 美学の系譜」展より 作品紹介2

こちらの作品は昭和15年に製作された、鹿児島では初公開の
「鶏と鶏頭花屏風」(染色・インド綿)です。
右側の鶏の図柄は本展のポスター・チラシにも採用しています。

本作は、鹿児島に来る前は染色家としても活躍していた寺尾の集大成ともいえる作品で、昭和15年に開催された皇紀2600年奉祝美術展で入選、展示されました。
鶏の図柄や屏風の上下には異国情緒を感じる文様が施され、84年経った今でもみずみずしく洒落た作品です。

昭和15年は松坂屋京都支店考案部に勤務していた寺尾が、鹿児島県工業試験場の窯業部長に招聘された年にあたり、製作は京都、出品は鹿児島からになりました。
図案家でもある寺尾らしく屏風の図案がいくつも残されていて、最終的にそれらの中からこの図案になったようです。(図案も併せて展示しています)

そして、本作品をもって寺尾は染色をすることはありませんでした。
寺尾作次郎の最後の染色作品をぜひご覧下さい。




ご自由にお持ち帰りいただけます

「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展のポスターには
寺尾作次郎の振袖図案(左)と染色屏風(右)を配してあります。

こちらのポスターの在庫がまだ少しありますので
ご所望の方にお譲りできるよう、展示室にご用意しています。

数に限りがありますが、ご自由にお持ち帰りくださいね。

「寺尾作次郎 美学の系譜」展 より作品紹介1

「没後40年寺尾作次郎 美学の系譜」展の会期中、展示している作品を少しご紹介していきます。
本日ご紹介するのは、第1会場の入口に展示している
「呉須辰砂魚文扁壺」(ごすしんしゃぎょもんへんこ)です。
「呉須」(紺)と「辰砂」(赤)は図柄を描いている釉薬の名前。
「魚文」は魚の絵付がされている、という意味です。
「扁壺」とは扁平に作られた壺のことで、横から見ると平べったくなっています。
この扁壺の形は寺尾作次郎が師事した陶芸家の河井寛次郎も好んで作っている形です。

「呉須辰砂魚文扁壺」昭和44年 紫原鹿窯 三宅病院新築落成祝の作

鹿児島に来る前の東京、京都時代は図案家として活躍していた寺尾作次郎。
この作品の図案もちゃんと残っています。

図案も併せて展示していますので、扁壺の図柄と見比べてみて下さいね。

没後40年寺尾作次郎展 ギャラリートーク開催レポート

10月5日(土)、没後40年寺尾作次郎展 ギャラリートークを開催しました。
講師は寺尾作次郎の三女で陶芸家の寺尾カリナさんです。

前半では主に昭和15年に鹿児島県工業試験場窯業部に着任する以前の、東京・京都での作家活動についてお話をうかがいました。

「鶏と鶏頭花屏風」(昭和15年、ポスター使用作品)は鹿児島に行く前に京都にて制作され、糊を伊集院の川で落として仕上げたそうです。本作品を最後に染色作品の制作をやめたので、この屏風が染色最後の作品となりました。

「獅子貼付文貼付革壺」(昭和12~14年、リーフレット掲載)は水牛の1枚革を叩き上げて壺形に成形したのち、版木にたたきつけてレリーフ状にした革を膠で貼りつけた珍しいつくりの作品です。革製の壺は斬新な発想で高い評価があった一方、実用性がないとの意見もあり、賛否両論だったそうです。

「河童像」(昭和32・33年、薩摩川内市川内歴史資料館蔵)は、旧川内市市役所の噴水に昭和32年から38年の6年間設置されていました。妖怪にしてはとても愛らしい造形となっているのは、小さいときの弟さんがモデルになっているからだそうです。

後半では、鹿児島での作陶についてお話をうかがいました。
寺尾の陶芸家としての活動時期は①来鹿以前、②鹿児島県工業試験場時代、③慶田窯時代、④紫原鹿窯時代の4つに分類され、うち今回の展覧会では②鹿児島県工業試験場時代 以降の作品を展示しています。
慶田窯時代は約4年間と短期間のため、残っている作品が少ないそうです。

寺尾作品の魅力の1つである染付の細やかな絵付けは、染色家時代に面相筆(毛先の細い筆)で様々な文様を描いていた経験が生かされているそうです。
イッチン技法(異なる釉薬、いわゆる「泥」をケーキの絞り器のようなもので出して絵を描く技法)にも、ろうけつ染めをしていた経験が生かされているのではないか、と仰っていました。

また、寺尾作品には人目に触れることのない箇所にも、丁寧な絵付けや細工が施されたものが多くあり、見どころとなっています。「窯変鳥葡萄文扁壺」(昭和43~59年)もその1つで、底の部分まで趣向を凝らした細工がなされています。 

寺尾カリナさん、ならびにご参加いただいた皆様ありがとうございました。

タニヤマアートシーンの作家たち⑨

第9回は、谷山地域に窯を構える三反田豊さんの作品を紹介します。

左:三反田豊「彩象嵌・大地陽映」(2001年)
右:三反田豊「多面体裂文花器」(2020年)

三反田さんは1990年、染色家で奥様の登美子さんとともに「工房豊炎」を設立しました。
「彩象嵌・大地陽映」はビルがひしめく都会の風景が太陽で照らし出される風景を表現した作品です。風景を表現しているグラデーション状の繊細な線は、釉薬や絵付けではなく、象嵌(色の異なる粘土をはめ込む技法)によるものです。
三反田さんは県内における象嵌技法の第一人者で、線やマーブル状など多様な形・色合いの象嵌作品を制作しています。
また近年は、「多面体裂文花器」のような無機質なフォルムでありながらもどこか温かみのあり、角度によって様々な表情をみせる多面体の作品にも取り組まれています。

「TANIYAMA ART SCENE」の会期も、明日からの三連休を残すばかりとなりました。ぜひ、谷山の活気あふれるアートシーンを体感していただきたいです。