タニヤマアートシーンの作家たち③

第3回は、清泉寺長太郎焼窯元 有山明宏さんの作品です。

清泉寺長太郎焼窯元 有山明宏「蓏」陶器
2003年頃 鹿児島陶芸展、琉球薩摩現代陶器展(2015年)出品作 

本日ご紹介する長太郎焼は清泉寺長太郎焼窯元の有山明宏(めいこう)さんの作品です。

ザラザラとした球体の上には穴が空き、そこからいくつかの筋が伸びています。まるでなにか未知の生命体の卵のようでもあり、黒い部分がススだとすると土器のようでもあり、なんともいえない不思議な焼物です。
大きさは縦横40cmほど。

この作品のタイトルは「蓏(ら)」。
さて、この作品は何を現しているのでしょうか?

作品のキャプションにその答えがあります。
2階展示室のガラスケースに展示していますので、
ご自身の想像と照らし合わせてみてください。

タニヤマアートシーンの作家たち②

第2回は本窯長太郎焼窯元の四代長太郎 長佑さんの作品「爽夏影」です。

有山長佑「爽夏影」 陶器 2012年作 第44回日展出品作

先日、画家の黒田清輝が命名したとご紹介した谷山で生まれた焼物
「長太郎焼」。
初代が窯を開いたのは谷山の小松原、情報高校近くの永田川河口沿いです。窯の跡地に今はマンションが建っていますが、石碑が残っているので場所はすぐに分かります。

現在の長太郎焼は、
谷山の木屋宇都(こやんと)地区の本窯
同じく谷山の清泉寺跡の清泉寺長太郎焼窯元
指宿市の指宿長太郎焼窯元の3カ所で炎が受け継がれています。

「タニヤマアートシーン」展では、
谷山で製作している本窯と清泉寺長太郎焼窯元の作品を展示しています。

先ずは本窯の四代長太郎長佑(ちょうゆう)さんの作品
「爽夏影(そうかえい)」をご紹介します。
作品名のとおり、夏の季節にぴったりの爽やかな青い釉薬*ですね。
これは四代長太郎のオリジナル色で、鹿児島の青い空と海を表現しているそうです。
青い色の下からかすかにのぞく白色に、みなさんは何を感じ連想するでしょうか?

この作品の見所は、下の円盤のような胴にその2倍ほどの高さの首が乗っているのに、平たい胴が潰れずきれいに円盤状の形を保っているところです。これは高い技術と経験が必要とされる造形です。

引き込まれてしまいそうな神秘的な青い色と、造形の妙をぜひ近くで見て感じて下さい。

*釉薬(ゆうやく)…陶器の土の上に掛けて焼くと、色が付いたり、模様ができたり、ガラス質なので水漏れ防止で実用的になるなどの役目があります。

夏季企画展「TANIYAMA ART SCENE(タニヤマアートシーン)」

名陶長太郎焼の発祥の地であり、国立西洋美術館の松方コレクションで知られる
松方幸次郎のルーツでもある谷山地区。
今も昔も多くの美術作家たちが精力的に制作活動をおこない、県内外の美術展での入選・受賞や、個展を開催するなどめざましい活躍をみせています。
本展では谷山ゆかりの美術作家18名による作品を紹介します。
絵画、彫刻、陶芸、染色、ステンドグラスなど個性にあふれ表情豊かな
谷山のアートシーンをお楽しみください。

絵画|庵跡芳昭 祝迫正豊 木下天心 児玉光仙 寺尾作次郎
   土岐浩蔵 濵元良太 廣岡謙一 矢澤一翠 吉村英彦 米倉秀紀
彫刻|田渕義弘
陶芸|有山長佑 有山明宏 内山聡司 三反田豊
染色|三反田登美子  
ステンドグラス| 田中千紘

会 期 :2024年7月1日(月)~9月23日(月・祝)
会 場 :三宅美術館2階絵画展示室
入館料 :一般500円、70歳以上100円、障害者手帳提示者100円
     高校生以下無料
主 催 :一般財団法人三宅美術館
後 援 :鹿児島県、鹿児島市教育委員会、南日本新聞社
協 力 :『令和6年度文化の薫り高いかごしま形成事業(鹿児島県)』

【終了しました】関連イベント
◇ステンドグラスを作ってみよう(満席により受付終了)
日 時:7月21日(日) 13:30~16:00
講 師:田中 千紘(ステンドグラス作家)
定 員:20名 (要予約・先着順) 
参加費:トロフィー   1,200円
   :サンキャッチャー1,500円
※小学校低学年以下は保護者同伴のもとご参加ください。
※当日は軍手・エプロンをご持参の上、美術館受付にお越しください。

◇出品作家・学芸員によるギャラリートーク
日 時:① 8月2日(金)14:00~14:30  当館学芸員
    ② 9月7日(土)14:00~     祝迫 正豊 先生
申込不要 要入館料

【放送終了】NHK総合「かごスピ」で指宿長太郎窯が紹介されます。

指宿長太郎窯元さんより、テレビ番組出演のお知らせです(※鹿児島県域限定での放映です。
鹿児島に密着した番組「かごスピ」にて、インタビューの様子が放映されます(以前紹介した「DESIGN TALKS Plus」の日本語版です)。

放送日時は次の通りです。
本放送 5月20日(金曜日) 午後7時30分~7時57分
再放送 5月21日(土曜日) 午前7時35分~8時00分

黒千代香に代表される伝統的な作品から、氷裂文シリーズ・タノカンサァ・Tenoutuwaシリーズのような現代的な作品まで、薩摩焼の幅広さを感じることのできる番組となっています。ぜひご覧ください。

第3回やきものお話会を開催しました

指宿長太郎焼窯元・有山禮石さんによる第3回やきものお話会を、2月13日(日)に開催しました。
最終回となる今回は、近代陶芸と現代陶芸のあゆみや、公募展の思い出についてお話いただきました。

会場風景
指宿長太郎焼窯陶主・有山禮石さん

今回のお話で、「陶芸」という言葉は実は比較的新しい言葉であることを初めて知りました。昭和6年(1931)京都出身の陶芸家・河村蜻山(かわむら せいざん)が日本陶芸協会を立ち上げたのが初出だそうです。
今日私達がイメージする「陶芸家」が、実は新しい概念であるということを、近代陶芸と現代陶芸の解説を通じて知ることができました。

近代陶芸は幕末の万博出品に始まる、海外の目線や文化との接触をきっかけに発展を遂げたといわれます。
富本憲吉(とみもと けんきち)や楠部彌弌(くすべ やいち)・板谷波山(いたや はざん)といった、全ての制作工程を自らが手がける「作家」(=陶芸家)が誕生し、東洋陶芸の伝統や西洋美術、あるいは彫刻や絵画といった陶芸以外の美術に学ぶことで、創造性あふれる作品が生み出されました。
それまで日本のやきものづくりは個別の工程を得意とし、製品の質が均一であることを重視する「職人」による分業制で成り立っていましたが、彼らの出現を機に次第に変化を遂げたそうです。

そして第2次世界大戦後に端を発する現代陶芸になると、戦争前とは全く異なる新たな価値観に基づいて創作活動が行われるようになったそうです。
かつては焼き場(作品を焼成する場所)を女人禁制とする窯元も少なくなかったようですが、現代では女性の陶芸家も珍しくなくなりました。
また、一人の作家で制作工程を一貫して行うことが当たり前となり、今日の「作家」像が確立された、というお話でした。

ご自身の作品が掲載された「日展ニュース」を示しながら
解説される禮石さん

加えて、公募展の思い出についてお話いただきました。
公募展の審査員を務める際は、勉強会に参加して事前に出品者の作風把握に努めていたこと、審査の際は5回見直しを行っていること、また公募展は初入賞後が難しいなどなど、作家さんならではのエピソードを伺うことができました。

※「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に基づき、参加者の検温、人と人とが触れ合わない間隔の確保、定期的な換気などの対策を行った上でイベントを実施しています。

第2回やきものお話会を開催しました

 1月9日、指宿長太郎焼窯元陶主・有山禮石さんの第2回やきものお話会を開催しました。
 今回は「釉薬の話」と題し、釉薬の基礎知識や配合方法、長太郎焼鉄釉の作り方等についてお話いただきました。

 はじめに前回の復習もかねて、禮石さんの解説のもと焼物の制作工程DVDを視聴しました。

 次に、展示作品の釉薬について解説頂きました。
 禮石さんの代表作の一つである「氷裂文シリーズ」作品(手前右)は流氷を表現した白い釉薬部分のシャープな印象、そしてその流氷部分と紺色下地のコントラストが印象的な作品ですが、今回その流氷部分の焼成前見本をご持参頂いた上で、ご解説頂きました。
 一見自然に亀裂が入ったかのように見える白い釉薬部分は、実は意図的に裂け目が入れられていて、焼成しても釉が動かないよう調整されていたり、反対に紺色釉は2回目の焼成で釉薬が流れるように熔解温度が低めになるよう調合されていたりと、作品の美しさが経験と緻密な計算に支えられていることを知ることができました。

 釉薬の奥深さ、そして不思議さについて再認識した時間でした。
 例えば「辰砂釉長首花生」(リンク先「長太郎焼」に画像がございます)の緑色は銅によるものですが、辰砂釉部分の上に施釉しないとこの緑色は出ないそうで、単独で白地に施釉すると赤くなるそうです。
 また、蛇蝎釉は釉薬・下地の微妙なバランスにより成り立つ製品であるため、冬季は焼成に適さないそうです。

 最後に、今日主流である釉薬の調合方法・ゼーゲル式について説明頂きました。
 ゼーゲル式とは化学式を用い、釉薬に含まれるアルカリ成分、アルミナ成分、シリカ成分の割合から釉薬の溶け方や性質を割り出すものです。窯場での事例を交えた丁寧な解説から、思い通りの釉薬を作り出すには釉薬に対する化学的な知識、豊富な経験を要すること、それを知った上で作品を鑑賞するとより鑑賞を楽しむことができることを学ぶことができました。

 なお、第3回やきものお話会は定員に達しましたためご予約を締切りましたが、今後のイベント開催の際は当ブログにてご案内いたしますので、引き続きご覧頂けますと幸いです。

第1回やきものお話会を開催しました

 12月12日、指宿長太郎焼窯元陶主・有山禮石さんの第1回やきものお話会を開催しました。
第1回では、「焼物の基本の話」と題し、焼物の製作工程、焼き物の各部の名称、焼き物の鑑賞の観点・見どころについて解説いただきました。

 まず焼物の製作工程についてお話を伺いました。
 ゼーゲル式、三角座標といった適切な粘土・釉薬配合比率を導き出すための工夫や、指宿カオリンに含まれるみょうばん成分の扱いの難しさに関するお話、また鹿児島には瀬戸、有田等の大窯業地のように粘土を産出する大きな山がないからこそ、地域ごとにそれそれ性質の異なる地元の粘土を用いた個性豊かな焼物ができる、という粘土の産地と陶芸の関係性のお話が印象的でした。

 次に、茶入れ・茶碗・黒千代香など実物の長太郎焼を例にとりながら、各部の名称や使いやすさのための工夫についてご解説頂きました。黒ジョカの底の足を、注ぎ口の真下からやや外してつけることで酒を注いだしずくが食卓に落ちないようにした工夫や、網を入れても蓋がしっかり閉まる急須のつくりに、皆様改めて感銘を受けたようでした。

 最後に、指宿長太郎窯の制作の過程を撮影したDVDを鑑賞しました。粘土の精製、土練りや、禮石さんの代表作である「氷裂文シリーズ」の製作の様子に皆様熱心に見入っていました。

 次回第2回やきものお話会は定員に達しましたためご予約を締切ましたが、第3回やきものお話会〈テーマ:近代陶芸と現代陶芸〉は申込受付中ですので、参加ご希望の方はお早めにお申込みください。

【終了しました】やきものお話会の御案内

薩摩焼の伝統を継承しつつ、現代を生きる新たな薩摩焼の探求を続ける指宿長太郎焼窯元・有山禮石氏による焼物お話会を開催いたします。
 有山禮石氏は第三代有山長太郎流石の四男として生まれ、指宿長太郎窯を継承します。北海道の流氷をヒントとした「氷裂文」をはじめ様々な独創性あふれる薩摩焼を発表し続けていらっしゃいます。また南日本美術展委嘱作家・鹿児島陶芸展招待作家であられます。
 釉薬から現代陶芸まで、幅広い陶芸に関する話題についてお話いただきます。先生のお話は焼物初心者の方にも分かりやすく、また質問しやすい雰囲気ですので、ぜひこの機会に焼物の世界に足を踏み入れてはいかがでしょうか。
 参加希望の方は、お電話(099-266-0066)またはお問い合わせフォームからお申し込み下さい。

〈開催概要〉
日 時:①12月12日(日)14:00~15:00 定員に達しました
    ② 1月 9日(日)14:00~15:00 定員に達しました
    ③ 2月13日(日)14:00~15:00 定員に達しました
(※1回のみの参加、3回全ての参加ともに可能です)
会 場:三宅美術館2階図書コーナー
参加費:当館入場料(一般500円、70歳以上100円、高校生300円、小・中学生200円)