池田政敏展から「漁具A」

blog漁具A
「漁具A」1993年作
第40回記念鹿児島県美展 初出品・初入選
F60号(130㎝×97㎝)

1972年,池田は結婚を機に大阪から故郷の与論島へ戻りヒカリレストランを開業しました。
1970年代に始まった空前の与論島ブームでレストランは終日フル回転。
制作活動もままならない日々でしたが,少しずつブームも収まり
仕事の合間に趣味で水彩画など描けるようになったそうです。

そうして描いた水彩画をレストランに飾っていたところ
ある日旅行で来ていた美術関係者に「譲ってほしい」と懇願され
それが本格的に絵画制作へのめり込むきっかけとなったようです。

もっと腰を据えて作品を描けるように,と
レストランの隣にアトリエを設け油彩画にも挑戦しはじめました。

最初は3号(27㎝×22㎝),4号(33㎝×24㎝)と小さいサイズから始まり
徐々に公募展を意識し大きいサイズを試みるようになりました。
そして,55歳にして初めて公募展に出品したのが本作品で,
第40回記念鹿児島県美展に初出品・初入選の快挙となったのでした。

遠浅の珊瑚が見える海の上に与論の漁具。
中央の籠は「ティル」と呼ばれる魚を入れる竹籠です。
その前に置いてある角のある貝は「水字貝(スイジガイ)」といって水の字の形をしていることから、玄関先に掛けておくと火除けや魔除けになるといわれています。
与論では「フーガギモー」というそうです。
島の生活に寄り添う日用品を描いた池田の与論に対する愛情が伝わってきます。

池田政敏展から「シュロとブーゲンビリア」

シュロとブーゲンビリア50-100
「シュロとブーゲンビリア」
(1998年頃 油彩・カンバス)

「-与論を描いた画家-池田政敏展」のポスターにも使われている本作品は
150号(縦1m80cm×横2m30cm)という本展で一番大きな作品です。

この作品を描くために池田は1年半もの間シュロを観察し
完成まで1年8ヶ月かけたそうです。
最初はブーゲンビリアとシュロだけでしたが
オオゴマダラが大群で越冬している場所を偶然見つけ,
嬉々として帰宅すると画面にオオゴマダラを描き加えたのだそうです。

画面左側に群生している白い花がブーゲンビリア,
全体を覆っている扇状で先端が裂けて垂れ下っている葉がシュロ,
中央をひらひらと舞っているのがオオゴマダラです。

シュロの葉が茂る中央にブーゲンビリアとシュロの花があしらわれ
濃い緑の中に咲く花をかすかに照らす陽射しによって
この作品の前に立つと深いシュロの森へと吸い込まれてしまいそうになります。

ちなみにこの作品に描かれている「シュロ」とは「ビロウ」のことで
与論ではビロウもシュロも「シュロ」とよんでいるようです。
与論の言葉では「フバ」といい、
このフバは葉が丈夫なため大変有用な木で
カゴ(フバ籠)やカサ(フバ笠)などの材料となり,生活に欠かせない木でした。
33回忌法要では葉で扇を作って供える習わしがあります。
フバの扇を仰いで天に向かうのだそうです。

「-与論を描いた画家-池田政敏展」

ikedamasatositen
鹿児島県の南端に位置する与論島に生まれ,与論島を描き続けた画家 池田政敏。
周囲わずか23Kmの島が有するゆたかな自然,そこに育まれる生命,人々の日常を
愛した池田の温かなまなざしを通して描かれた作品は,私たちをユンヌ(与論)の
世界へといざなってくれます。

本展では初期から晩年までの油彩画を24点を展示いたします。
期間中,中学生以下は入館無料となっておりますので,ぜひ親子でご覧下さい。

<池田政敏(1938-2013)>
鹿児島県大島郡与論町に生まれる。「ヒカリレストラン」を営む傍ら独学で
水彩画・ 油彩画を描く。白日展奨励賞。名瀬市美術展覧会奨励賞。
白日会会友。与論町栄誉町民。 その他日展、白日展、県美展で入選。

<展示作品>
熱帯の魚達(2002)第78回白日展佳作賞
島の杜(1997)  第17回名瀬市美術展覧会奨励賞
漁具A(1993)  第40回鹿児島県美展初出品・初入選 他21点

【 会 期 】平成27年7月18日(土)~9月8日(火)
(ただし水曜日・8月14日~16日は休館)