お隣の海でも…

前回、桜島の降灰が錦江湾のサンゴに及ぼしている問題を書いたばかりでしたが、
宮崎県の日南海岸国定公園に指定されている日向灘でも
新燃岳の火山灰がサンゴに積もり、一部が死滅しているそうです。

『火山灰って海の底に沈むんだ!』と改めて実感された方も多いと思います。

側溝などには、水分を吸って重くなった火山灰が溜まりやすいですね。
水で流そうにも、なかなか流すのに苦労します。
当館にある噴水も、もともとはきれいな水色のタイルが見えていますが、
降灰のシーズンになると噴水の底に火山灰がびっしりと積もり、掃除も一苦労。

私たち人間は降り積もった火山灰を少しずつでも除去して行くことができますが、
海底に生きるサンゴたちは火山灰が降り止むのをじっと耐えて行くしかないのでしょうか。

桜島共存ゆえの特殊能力?

新燃岳、桜島の噴火・降灰が続いておりますが
大隅半島に住む知人によると新燃岳と桜島の灰は匂いが違うのだそうです。
匂いを嗅ぐと、どちらの灰が降ってきたのか分かるのだとか。

さすが、火山と共存している県民です。
季節が移り夏になると、風向きはこちら(鹿児島市方面)へ向かってきます。
私も匂いでどちらの火山灰なのか区別できるようになるのでしょうか。

本日13時58分昭和火口からの噴火。
(美術館屋上から撮影)
 
さて、この火山灰
地上だけではなく錦江湾の海中まで降り注いでいるのだそうです。

ご存じのとおり、日本で初めて海の中の国立公園(海中公園)に
指定された一つが桜島海中公園で、そこにはサンゴが群生しています。

悲しい事に、昨年から活発化している桜島の噴火で珊瑚に灰が降り注ぎ、
呼吸や共生する植物性プランクトンの光合成が難しくなって
死んでしまう珊瑚もいるのだとか…。

しかし、その中でも「シコロサンゴ」という珊瑚は
自分で灰を払いのける能力に長けているそうで、他の珊瑚が灰まみれの中
このシコロサンゴだけは表面に火山灰がついていないのだそうです。

今回の写真展でもシコロサンゴの写真が展示されていますが
出羽さんの付けたタイトルは「火山灰の間のオアシス」。
理由は、灰色の海底で、まるで砂漠のオアシスのように輝いていたから。

火山灰を匂いで区別できる知人といい
このシコロサンゴの能力といい
桜島と共存しているゆえの特殊能力なのでしょうか?

シコロサンゴの写真はこちら
展示室ではシコロサンゴの映像もご覧いただけます。

鹿児島湾(錦江湾)の海底地形

目の前に対岸が見える錦江湾。

一見そんなに深いようには見えませんが
実は水深220mを超える‘どん深の海’なのだそうです。
珊瑚が生息していれば深海魚も生息している
不思議な生態系を持つ所以はその地形にあるようです。

『桜島 海底に流れる時間』では写真の補足情報として資料をいくつか展示しています。


その中の、等深線の入った鹿児島湾海底地形図と
鹿児島湾海底地形模型(鹿児島大学水産学部西隆一郎研究室 蔵)の二つを見比べて頂くと
鹿児島湾の海底地形がとてもよく分かります。

桜島のなだらかな斜面が水面下までずっと続いていると思いきや、
桜島の南側 観音崎あたりは水深160mほどまで一気に深くなっています。
模型でみるとまさに断崖絶壁です。

 

桜島の北東、福山町には海上自衛隊の鹿児島試験場があり時々潜水艦を見かけますが
ここも水深200mになってます。

一方、小学生たちが遠泳をする辺りは水深40〜50mほどのなだらかな地形となっています。
模型を参考に写真の生き物たちの生活に思いをはせてみて下さい。

参考までに、
鹿児島湾の先の海底地形は鹿児島大学総合研究博物館の常設展示室でご覧いただけます。
(資料名:海底地形と地質断面)鹿児島湾のみならず、鹿児島県全域の海底地形の模型です。これをご覧いただくと、今活発に爆発的噴火を繰り返している新燃岳、桜島を含めその他鹿児島県の火山がこのように配列している理由が一目瞭然です。

(火山の配列:気象庁)

鹿児島湾の「たぎり」

今朝の南日本新聞に、海洋研究開発機構が鹿児島湾の「たぎり」を音波探知機でとらえ
従来より鮮明な画像を得るのに成功した、という記事が掲載されていました。

鹿児島湾の「たぎり」とはいったい何なのでしょう。

鹿児島湾北東部の海中にある海底カルデラおよび
海底火山群の若尊(わかみこ)で確認される火山性噴気活動のこと、だそうです。
海底火山は現在も活動が続いており、海底においても活発な噴気活動が観察されていて、
噴気が海面に泡となって現れることから「たぎり」と呼ばれているのだそうです。

鹿児島弁でお湯が『沸く』ことを『たぎる』と言いますね。
この『たぎる』からきているのでしょうか。

桜島の噴火活動を目の当たりにして生活していても
その真下の鹿児島湾には海底火山があって活発に活動している、
という事実を分かっているようで実感がないまま毎日眺めていたのですね。

雪の日の錦江湾は…

昨朝は、当館周辺も雪が2,3cm積もり冷たい朝となりました。

こんなに寒い日、錦江湾の生き物たちは水の中でどんな風に過ごしているのでしょう。
さぞや冷たい海中で、寒い思いをしているのでは…

この季節の水温は約16度ほどだそうです。
水温の方が気温より高いので、
出羽さんによると寒風にさらされた船上から水の中に入った瞬間は、
温泉に浸かったように温かく感じるのだそうです。

気温より水温の方が高い…日常生活を送る中では考えたこともない事でした。
こんなに寒い雪の日、
錦江湾の中でも水面に落ちてくる雪を眺めている生きものがいるのかもしれません。

海松

出羽さんの作品の搬入も無事終わり、明日からいよいよ展示に入ります。
これは展示予定の作品の一つで「ナガミル」という海藻の写真です。

あまり聞きなれない名前ですが、ミルという種類の海藻の1種です。
「ミル」を感じで書くと「海松」となります。

伊勢神宮の新嘗祭で神饌(神様に供える食事)としても供えられている
日本人には古来から馴染み深い海藻です。

といっても、この写真のミルは食べられない種類で、
神饌としてお供えされているミルは食用の別のミルだそうです。

以前このミルという海藻を知らずに
伊勢神宮の神宮徴古館で神饌の品書きで見たときに
「ミル貝ですか?」と学芸員さんにたずね、
初めて海藻であることを知りました。

その時教えていただいたのですが「海松文」というミルをデザインした文様が
平安時代の装束に用いられていたそうです。

もう一つ。

出羽さんから日本古来の色名に「海松色」という色がある、と教えていただいたので
日本色研事業株式会社発行「日本伝統色色名事典」で調べてみました。

以下引用させていただくと

海松色とは、
 海松は海草の一種で、その色からきた色名である。
 日本では長い間、この系統の緑色を表す色名がなかったので
 洋色名のオリーヴが登場するまで、
 平安朝から明治初期まで海松の色名は広く用いられた。
 鈍い緑系統の色としては木賊色も同じように使われたが
 木賊色はより青みを含んだ色として海松と区別される。
 海松は近世に入り江戸時代になると、たびたび流行した色なので
 暗緑色がかった茶色としての海松茶や、
 青みの海松茶という意味の藍海松茶などの当時の流行色も現れた。
ということです。

ミルって古来から本当に身近な海藻だったんですね。

錦江湾の外の海は?

先日「錦江湾はどこまでか」ということを書きましたが
今度は「 錦江湾の外は東シナ海と太平洋のどっちだろう? 」
という疑問がわいてきました。

薩摩半島側は東シナ海、大隅半島側は太平洋で
きれいに半々で接していたりして!?

早速、第十管区海上保安本部海の相談室 に問い合わせてみました。
すると、すぐに国際水路機関(IHO)のドキュメントを送って下さり境界線が判明しました。

東シナ海と太平洋の境界は
「火(肝付町)から種子島の最北点、喜界島の東側を結んだ線」
となるようです。

その先は沖縄本島の南端を通り宮古列島の波照間島の東側、
与那国島の西側を結ぶ線になるようです。

ドキュメントが英文だったのと
ところどころ位置が緯度経度で示されていたので
微妙に解釈がずれているかもしれませんが
おおよそこのような感じのようです。
               
というわけで、
錦江湾(鹿児島湾)の南側は全て東シナ海となります。
驚いたのが大隅半島の東側は太平洋ではなく東シナ海だったという事実!   
内之浦のロケット基地が面している海も東シナ海なんですね。  
勝手に大隅半島の東側は太平洋だと思い込んでいました。

どこまでが錦江湾(鹿児島湾)?

出羽慎一さんの写真展、着々と準備が進んでおります。

さて

出羽さんの写真展を「錦江湾の水面の向こう側」って自分たちで紹介しているけど
いったい錦江湾ってどこまで???

と、疑問に思ったので
環境省のHPで調べてみました。

まず、私たちは通常「錦江湾」と呼んでいる この目の前に広がっている海は
正式には「鹿児島湾」なんです。
地図にも「鹿児島湾」と載っています。

その鹿児島湾は
「長崎鼻と大隅半島の立目崎を結んだ線まで」
なのだそうです。

灰神楽

昨日のニュースで初めて「灰神楽」という言葉を知りました。

昨日は鹿児島で言う「ドカ灰」で
桜島の噴火による降灰がすさまじく全国ニュースになっていましたね。

この灰が降り注ぎ、もうもうと舞っている様を「灰神楽」と言うようです。

でも、昨日の風向きでは同じ鹿児島市でも谷山方面には流れてきませんでした。

が!

本日は谷山の真上に噴煙が…
一気に外が暗くなり、写真のような黒いもやもやが
あっという間に青空を覆い尽くしてしまいました…。

 

私たちにできること

企画展アンケートで一番多い感想は
「身近な錦江湾に、こんなにもたくさんの美しい生き物がいるなんて、知らなかった」
という‘意外な生き物の宝庫’という驚きです。

そして、次に多いのは
「錦江湾の生き物の環境を守っていかなければ・・・」
と環境へ配慮した、さらに1歩踏み込んだ感想です。

錦江湾の環境を守る!
といっても、個人の力ではなかなか湾岸工事は止められないし
地球規模の温暖化を止めることもできません。

でも、個人のほんのささやかな心遣いが
生き物たちにとって大きな意味があることも事実です。

例えば、鰓(えら)呼吸をする魚にとって界面活性剤は天敵!
鰓に付着してしまうと膜ができ、呼吸できなくなってしまうそうなのです。
私たちが洗剤やシャンプーなど界面活性剤の入っていないもの
あるいは、植物性の界面活性剤を使用しているものに変えるだけで
魚たちにとって、優しい選択になるのです。

文明の利器に頼り切っている生活を100歩譲って…
なんて、もう難しいし無理ですよね。
でも、自分なりに1歩譲って
デリケートな生き物に優しい環境づくりをお手伝いしてみませんか?