黒千代香について


「歴代長太郎展」では二代長太郎正夫作 「大黒千代香」(オオクロヂョカ)
(直径30cm)を展示しています。

「ヂョカ」とは鹿児島で焼酎用の酒器のことです。
水で割った焼酎をヂョカで一晩寝かせ火にかけると
まろやかになって美味しいのだそうです。

薩摩人にとって黒ヂョカは
 「金ヂョカ茶ヂョカいっぺこっぺさるっもしたやすったいだれもした」
 (金ヂョカ茶ヂョカあちこち歩き回ったのですっかり疲れました)
という言い回しがあったり
 「つぼ屋の土産に茶家三つ貰うた
  一ちや黒茶家(焼酎用)
  一ちや茶茶家(お茶用)
  一ちや家内へ歯黒茶家(鉄漿用)」(*1)(茶家=ちょか)
というヂョカを唄った「笠之原のつぼ屋節」という民謡があるように
大変身近な日常雑器です。

そのためか以前は「ヂョカ」にあてる漢字は特になかったようです。

例えば昭和4年,高松宮殿下が吾平山稜を訪れた際の逸話として
「後藤知事と永田代議士黒ヂョカの説明に当惑」という記事が朝日新聞に載せられています。殿下が黒ヂョカで焼酎をお召しになった際
「チョカはどのような文字を書くかとの御下問に流石の永田氏も困惑してしまひ
薩摩独特の名称でありましてどんな字を當てはめるのでございますが分かりませんと
お答へすると、ハハ…さうかなあ…とチョカが非常にお気に召した。」(*2)
とあります。

また,昭和10年10月,久邇宮殿下来鹿の折,初代長太郎の黒ヂョカをご覧になり,どういう字を書くのか,と知事に質問なさいましたが即答できず後日言上するということになりました。
当時の識者で議論された結果,初代長太郎が当てていた「黒千代香」になったのだそうです。(*3)

つまり現在主流となっている「千代香」の字を最初にあてたのは初代長太郎なのです。

また,このソロバン玉の形をした胴体も桜島と錦江湾(鹿児島湾)に写る桜島の影を見て
初代長太郎が考案したものです。 
それまでのヂョカは楕円の形が一般的でしたが,
熱効率が良い事から現在ではソロバン玉の形が主流となっています。

ソロバン玉型と千代香の名前が100年後には当たり前のように普及しているなんて
初代長太郎も予想していなかったのではないでしょうか。

(*1)(*3) 木原三郎 昭和54年「陶工長太郎」
(*2) 鹿児島縣酒造組合聯合會 昭和15年 薩摩焼酎の回顧」第六章薩摩酒器 黒ヂョカに就いて